中国スタートアップ概況(20年10-11月)

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中国ベンチャー投資市場の概要

2020年10月12日から11月15日の間に中国ベンチャー投資市場で行われた資金調達は、前期から108%増加して498件(上場や買収を除く)だった。業界別では企業サービスがトップになり、医療ヘルスケアは2位に後退した。その後に生産製造業、ハードウエア、エンタメ・メディアと続く。

投資ステージでは、アーリーステージと戦略投資が多数を占めた。

この1カ月に行われた資金調達にスポットを当て、重要投資案件が市場に与える啓発や注目分野の成長を分析してみたい。日本語のデータベースにも関連業界の有望企業20社を追加した。

 

重要投資案件

ネット配車サービス「首汽約車」がシリーズCで数百億円調達

「首汽約車(Shouqi Limousine & Chauffeur)」は国有資産をバックに持つネット配車サービスで、中国のネット配車市場でトップクラスの実力を誇る。サービス開始からすでに5年になる。

2020年5月、首汽約車CEOが全社員に向けて送った内部メールによると、4月に全国規模で黒字を達成しており、第4四半期にはEBITA(利払い・税・償却前利益)がプラスに転じる見込みがあるということだ。2020年9月時点で、首汽約車の登録ユーザー数は前年同期比31.3%増の1億1300万人、契約ドライバーは同32.7%増の113万人、運用都市は同66%増加して160都市だった。ここ数年はニッチ市場を攻略すべく、デラックス車や学生向け、ブライダル向けなどの商品をリリースしている。

ネット配車市場は飽和状態となっている上、新型コロナウイルス感染症の流行で甚大な影響を被っている。このような状況で首汽約車が巨額を調達できたのは黒字達成によるところが大きい。また投資家は首汽約車のサービス細分化やリスクコントロール能力、政府とのパイプといった面に注目したとも考えられる。

首汽約車

 

生鮮食品販売プラットフォーム「Dmall」がシリーズCで420億円調達

2015年設立の「多点(Dmall)」は、生鮮食品のデジタル販売プラットフォームだ。2020年10月末時点で、チェーンストア事業者120社と提携を結んでおり、全国に1万3000店以上を展開している。多点アプリの登録ユーザーは1億5000万人を超え、月間アクティブユーザーは1800万人に上る。

主要事業の1つは、オフライン展開する小売スーパー向けに位置情報サービスに基づいた配送サービスを行い、手数料や送料を徴収するというビジネスモデル。もう1つは技術ミドルプラットフォームを構築して、大型スーパーや小規模店舗のデジタル化を支援するというもので、これが現在の重点事業となっている。

 

新型コロナウイルスの流行により、今年は地域密着型の小売業が注目分野となった。その中でDmallが首尾良く資金を調達できたのは、これまで5年余りをかけてニーズを把握してきたことや、「分散型EC」という概念を始め、さまざまな「業界初」を打ち出したことが評価されたからだろう。

 

不動産管理サービスの「融創服務」が香港に上場

2004年に設立された不動産管理サービスの「融創服務(Sunac Services)」は、2019年に全体成長率が104.5%に達し、中国の同業界でトップとなった。

融創服務の主要事業は不動産管理サービスやコミュニティーの付加価値サービスなど。親会社である不動産デベロッパー「融創集団(Sunac China Holdings)」への依存度を減らすため、今年5月に不動産管理会社「開元物業管理(New Century Property)」を買収し、開拓能力の増強を行った。また9月にはテック企業「鋒物科技(AiForward)」に戦略投資を行い、クラウドコンピューティングやIoT、ビッグデータ、AIなどの技術を不動産管理に導入し、サービス品質の改善や利益率の向上を図っている。

融創服務

 

今年、中国の不動産デベロッパーによる不動産管理事業の分離上場が相次いだ。リスクの分散と安定したキャッシュフローを得ることが目的だ。不動産管理会社が今後も急速な伸びを維持するには、付加価値業務を拡大すると同時に、AI技術を活用するなどしてコストを削減していくことが必要だ。

 

注目分野のトレンド考察

1. 企業サービス

  • コンテナ物流

中国のコンテナ物流業は急成長期にあり、港湾のコンテナ取扱量は年々増加の一途をたどっている。それに対してコンテナ輸送市場は空白域となっており、物流インフラの建設などの面では大きな改善の余地を残している。

この1カ月の間に、コンテナ物流サービスを展開する「箱信(Xiangxin)」がシリーズAで資金を調達した。2015年11月に創業した箱信は、荷受人、トラック運転手、港湾をつなぐプラットフォーマーおよび陸運会社だ。インターネットを活用して情報化とスマート化を進め、物流コストの削減と輸送効率の向上を実現している。

創業者の兪簫氏によると、箱信は物流コストの低い運送プラットフォームを提供し、業界で広く見られる遊休車両や空荷という問題をAI技術で解決することにより、物流コスト全体の削減を目指している。現在のところ、ウェブサイト、アプリ、ミニプログラムという3つの方法でプラットフォームにアクセスできる。顧客はプラットフォーム上で日付やコンテナサイズ、重量、船舶会社などの情報を入力し、料金計算システムを使って注文を確定する。管理システムから貨物の追跡を行うことも可能だ。ドライバーは受注システムを通して顧客が入力した情報を受け取り、サービスを提供する。業務完了後に決済システムから収益を得る仕組みだ。

 

  • フルシーンで活用できるヒューマン・マシン・インタラクション

近年、自然言語処理をベースにしたヒューマン・マシン・インタラクションや感情認識技術がさまざまな業界で広く活用されるようになっており、多くの企業がスマートカスタマーサービス、スマートスピーカー、コミュニケーションロボットなどの事業化に成功している。ただ、音声やテキストなど単一の認識方法を採用しているものが大部分を占めており、マルチモードの感情認識を取り入れているものは数少ない。

この1カ月にシリーズCで資金を調達した「竹間智能(Emotibot)」は、テキストや音声、画像などの情報を総合して認識や計算を行うことでロボットの認識能力を高め、マルチモードのヒューマン・マシン・インタラクション技術を確立している。

竹間智能の技術はファーウェイや中国銀行、BMWなどの大手企業で実際に活用されており、企業のリピート率は80%にも上る。その活用例はカスタマーロボット、文書管理、顧客のニーズ予測、顧客像の構築、カスタマーサービスの補助など幅広い。竹間智能のコアコンピタンスは2つある。まずデータのプライバシー問題を解決するためにプラットフォームでプライベート展開を行っていること。そしてプラットフォーム構築のスキルと驚異的なスピードだ。3年前にはプロジェクト実施までに9カ月ほどを要していたのが、現在ではほとんどが2カ月以内に完了している。

竹間智能

 

2. 製造業

  • AI製薬

従来型の製造業に従事する企業に共通するのは大量のデータ、労働力集約型、複雑なプロセスという特徴だ。その中で、データをもとにアルゴリズムを駆使するAI技術の活用がさまざまな分野で広がっている。その一例が製薬業界だ。現在、AI製薬は新薬開発の分野で集中的に採用されている。

製薬業向けの意思決定支援プラットフォームを手がける「沃時科技(HOURS)」は、医薬品のCRO/CMO(医薬品開発業務受託/医薬品製造業務受託)を行う企業に実験施設の開発や製造技術の拡大、生産などさまざまなAIサービスを提供している。また顧客ごとのニーズに合わせるため、モジュール化された製品を組み合わせてサービスを提供しており、API接続により顧客のプライバシーとデータセキュリティーを保証している。

沃時科技が取得した関連特許。
画像出典:https://36kr.com/p/916565404873475

 

沃時科技はCMO上場企業を含む多くの企業とビジネス契約を結んでおり、すでに第2弾の提携が進行中だ。第1弾の提携プロジェクトでは、沃時科技のサポートを活用した実験施設で研究効率が飛躍的に向上するという結果を見せている。

 

  • 産業用AIビジョン

中国の製造業全体がアップグレードを迫られている中、多くの大企業は半自動化の段階でストップしており、その柔軟性の欠如により産業ロボットの活用が大きく妨げられている。生産プロセスの全自動化を進めるために、測量や測位、検査、認識などに産業用AIビジョンを活用するなど、産業分野におけるAI技術の導入が広がっている。

2017年に設立された「阿丘科技(Aqrose Technology)」はAI技術と産業ロボットビジョンのコアテクノロジーを研究開発する企業だ。同社が開発した産業用AIビジョンプラットフォームは、通信・家電、自動車、半導体、物流など幅広い分野に対応しており、欠陥検出や文字認識、高度な分類などの機能を備えている。

重なった部品を識別する。画像出典:https://36kr.com/p/1721546850305

 

阿丘科技は産業用AIビジョンの活用プロセスを標準化し、インターフェースをビジュアル化することで、プログラミング知識のないユーザーでもAIモデルのトレーニングや配備が行えるようにした。同社の主力製品「AIDI」はフォックスコンなど精密機器を製造する大手企業も導入している。誰にとっても使いやすいというプラットフォームの特性により、多くの事業者がAIDIをベースにした特定分野向けの産業用AIビジョン検査システムを開発している。

 

3. ハードウエア

  • スマート協働ロボット

新しい産業用ロボットの一つである協働ロボットは、人と協働する上での障害を取り除き、幅広い分野で活用できる画期的な性能を持たせたものだ。このためライフサイエンスの分野でも大きなニーズがあり、労働コストや実験時の誤差を減らせると大きな期待が寄せられている。

ロボットのオートメーション技術の開発事業で2016年に起業した「鎂伽(MEGAROBO)」は、スマート製造業やスマートリテールなどの分野で実用化を果たしている。最近ではサブブランド「鎂伽鯤鵬実験室(MegaLab)」を立ち上げ、ライフサイエンス分野におけるロボットとAI技術の応用について探求を進めている。同実験室の主任科学産である王承志博士によれば、鎂伽は過去1年間に業界に先がけて哺乳動物の細胞培養をフルオートメーション化し表現型スクリーニングを行うプラットフォーム、遺伝子編集プラットフォーム、薬物のハイスループットスクリーニングプラットフォームを独自に開発し、ライフサイエンスの専門分野における活用への拡大を進めている。

鎂伽のライフサイエンス・オートメーション化

 

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