次世代カー開発へのシード技術~調光自在な窓用フィルムから運転アシスト用AIまで

テクノロジーで革新的なモビリティ体験を生み出す中国

自動車は高単価だが購入頻度の低い製品であり、消費者は購入を決める際、多くの時間と労力を割いて比較を行うことが多い。評価選定の視点も、ブランド、価格、外観、性能、アフターサービスなどに及ぶ。自動車メーカーにとって、消費者の期待にマッチし、ニーズを満たす乗車体験をいかに提供するかが大きな課題であり、技術を通じた各要素の融合が自動車ブランドや消費者により多くの新たな可能性をもたらしている。

今回のDeep Diveでは、乗車体験をめぐる中国企業の技術活用やイノベーションモデルについてお届けしよう。

1. 最適な運転姿勢を自動調整するAI

ドライバーの姿勢、椅子とハンドルとの距離は、かなりの程度において運転中の快適性を左右する。走行時、一般的にはドライバーが手動で調整しなければならないため、一定の安全リスクがある。中国企業「亘星智能(GlinsunAI)」のAIに基づく3D人体再構築技術では非接触型の人体測定を実現しており、システムは画像または映像のみで3D人体を再構築でき、ユーザーの脱衣あるいはボディスーツ着用の必要がない。この技術は現在、バーチャル試着業界の発展を後押ししており、自動車、軍需産業、人体工学設計などの分野にもポテンシャルがある。

亘星智能は自動車分野においてダイムラーのインキュベーションチームと提携し、3D人体再構築によるスマート操縦席を共同で開発した。アルゴリズムによりリアルタイムで取得したデータを車載コンピュータに自動アップロードし、車載モーターをコントローラーにより制御することで、ドライバーがシートの傾斜角度や距離を調整するサポートを行い、モビリティの安全性と快適性を引き上げるものだ。

亘星智能のアダプティブシート調節システム

亘星智能(武漢 直近の資金調達ステージ―非公開)

2017年創業。コンピュータグラフィックス、コンピュータビジョン、ディープラーニングなどの先進技術の特定業界における革新的活用に注力する。創業以来、服飾・ファッション、スマートマニュファクチャリング、スマートシティ、ロボットなどの分野において製品や技術を複数開発してきた。マイクロソフト、グーグル出身の専門家が同社の技術チームを率いており、ウクライナやロシアなど複数国の外国人エンジニア、帰国者および中国国内の著名大学の卒業生などを抱える。武漢大学、華中科技大学、香港理工大学、東華大学、武漢紡績大学、北京服装学院、江西服装学院などの教育機関と幅広く交流・提携している。

2. ドライバーの行為やコンディションを監視するAI 保険リスク管理にもメリット

長距離運転においては、ドライバーの疲労や意識散漫などの危険な運転状況が発生しやすい。スマートドライビングといったAI関連技術の登場がこうした問題の解決策を示している。

中国のAI関連企業「径衛視覚(ROADEFEND)」のスマートドライビングアクティブセーフティシステムは、顔認識とジェスチャー認識を通じてドライバーの行為を解読する。同システムの活用シーンは主にドライバーおよび走行状況の両方を対象としている。ドライバーを対象としたセンサーは、疲労アラーム、意識散漫の注意喚起(携帯を見るなど)、通話アラーム、喫煙アラームなどに利用される。また走行状況を対象とした装置は、衝突アラーム、車間距離接近、急ブレーキ・減速・方向転換アラーム、車線逸脱アラーム、ブラインドスポット検知などに利用される。

同社は運転の安全係数向上に加え、保険会社との協業にまでサービスを拡充する新たなビジネスモデルも試みている。事故がもたらす損失の規模は甚大なため、従来、保険会社が商用車に対して設定している保険料率は非常に高額だ。だがスマートドライビングデバイス一式を搭載し、クラウドデータフローシステムを組み込んでいる商用車は、保険会社による保険料判定において高いリスク管理安全係数を獲得できる。径衛視覚はこうした方面で保険機関との提携を実施しており、データを通じて保険会社のリスク管理の最適化を支援している。

径衛視覚の運転状態認識システム

径衛視覚(上海 直近の資金調達ステージ―シリーズB)

ドライビングセーフティシステムの開発メーカー。コンピュータビジョン技術を採用し、ドライバーの顔情報の検知・分析により危険運転行為を判断し、路面逸脱アラーム、喫煙アラーム、通話アラームなどを実現するとともに、車両走行情報とドライバーの状態をバックエンド監視システムに送信できる。本部は上海にあり、深圳、蘇州にR&Dセンターと製品実験室を設けている。現時点で保有する特許、ソフトウエア著作権などの知的財産権は60件にのぼる。サービス体系は全国7大エリアをカバーし、事業も北米、南米、欧州、中央アジア、東南アジアなどをカバーしている。

3. インタラクティブ運転席のVR・ドライブシミュレーション技術が試乗体験を向上

ADAS(先進運転支援システム)は、主として車両が突発的状況に遭遇した際の自動緊急ソリューションに利用され、ドライバーの事故被害率を低減、あるいは完全に阻止する。しかし、通常はADASがアクティブになることはないため、安全保障機能の価値や意義を感じにくいのが現状だ。自動車販売の際も、従来の試乗においてはそうしたシーンをシミュレーションすることができない。

中国のVR関連企業「51World」はVRとシミュレーション技術をベースとしたインタラクティブ運転席を開発しており、シミュレーションシーンの中にあらかじめ高速道路、街中の渋滞区間、側道、坂道など各種の道路状況を組み込んでいる。例えば、VRによる幹線道路と側道との交差点のシミュレーションシーンにおいては、車両が側道から突然割り込んでくるが、この車両は同交差点の幹線道路の走行車にとって脅威となるおそれがある。こうした緊急状況では、ADASが危険を自動で認識し、BSM(ブラインドスポットモニタリング)システムを自動で立ち上げ、サイドミラーに赤ランプを点滅させることで、幹線道路のドライバーに対して車両の注意を促し、事故の発生を軽減させる。

こうしたシミュレーション体験は、従来の試乗に比べ、消費者がADAS機能を搭載した車種を真の意味で評価する一助となり、これにより購買行為も発生する。完成車メーカーおよびディ―ラーが今後ADASを普及させる際にも役立つだろう。このADAS搭載型インタラクティブ運転席は、すでに自動車販売店で活用・導入されている。

51World のドライブシミュレーションインタラクティブ運転席の様子

51World(北京 直近の資金調達ステージ―シリーズB)

VR+AIに立脚した独自の高度先端技術を有する企業であり、2015年2月に創業。スマートシティ、自動車、不動産の三大分野をベースに、企業と政府の有効かつスピーディーなテクノロジーによるモデルチェンジを支援する。現時点で、自動運転シミュレーションテストプラットフォーム、スマートシティプラットフォームおよび一連の不動産デジタルプロダクトの三大製品ラインナップを抱える。 ダイムラーのスタートアップ支援プラットフォーム「STARTUP AUTOBAHN China」のメンバーでもある。同社は現時点で約3億元(約45億円)の資金調達を実施しており、「商湯科技(センスタイム)」「Star VC」、「光速安振中国創業投資基金(LIGHT SPEED CHINA PARTNERS)」「当代集団(DANGDAI GROUP)」「浦発硅谷銀行(SPD Silicon Valley Bank)」などが出資している。

4. 最新のフレキシブル明暗液晶フィルムで調光可能な自動車フィルムを生産

各大手自動車メーカーは、より優れたテクノロジーによるUX(ユーザー体験)の向上を積極的に模索している。そのうち、調光可能な自動車用フィルムは競争の一大焦点となっており、自動車用フィルムのグローバル市場だけをみても今年2020年中に500億元(約7500億円)に達すると予想される。市場の一般的なフラット液晶フィルムに比べ、フレキシブル明暗液晶フィルムはそのフレキシブル基材をベースに「任意の形状」に加工でき、眼鏡、建築用ガラス、自動車のサンルーフなど「異なる形状」のニーズに応えると同時に、外部環境の変動に応じた明るさ調節も可能だ。

この業界で最大の参入障壁となるのは技術であり、日本の「DNP(大日本印刷)」、韓国の「LG」、ドイツの「Merck(メルク)」、中国の大手ディスプレイメーカー数社はいずれも研究開発に巨額の資金を投じている。中国の材料メーカー「唯酷科技」は、独自の「フレキシブル」明暗液晶フィルム技術および同フィルムを生産する全自動フレキシブルロール・ツー・ロールLCD生産ラインを有する。

唯酷科技の自動車フィルム(明暗液晶フィルム)の常暗モード(自動車のサンルーフに使用)での透光率は0.5%にとどまり、切り替え速度はわずか0.1秒未満だ。このほか、市場に現在存在する調光フィルムで比較的一般的なのはPDLC(高分子分散型液晶)技術だが、透明または白濁不透明の切り替えしかできず、プライバシー確保のための視線遮断にのみ適しており、車内には利用できない。 唯酷科技の液晶フィルムは透明状態でのヘイズ値がより低く、透過率の調節可能範囲がより幅広い。さらにブラック/透明/グレーの状態を選択でき、連続無段調光など複数の切り替えモードがあり、消費者はより多くのシーンを選択できる。

唯酷科技のフレキシブル明暗液晶フィルム技術

唯酷科技(珠海 直近の資金調達ステージ-非公開)

「唯酷光電(Wicue)」の傘下企業で、本部は珠海。唯酷光電は2014年に創業され、広東省深圳市に本部を構える。液晶手書きタブレット、自動車・建築窓用明暗調光フィルム、調光変色液晶サングラス、調光ゴーグル・ヘルメットなどのフレキシブル液晶材料および応用製品の生産に特化する。現在は家庭用電化製品、コネクティッドカーなどの分野で活用されている。

同社は特許取得済みの核心製品を複数有しており、自動化ロール・ツー・ロール液晶フィルム生産設備を自主開発しているため、生産の自動化効率が高い。また液晶手書きタブレットは高明度・高コントラストという特性を有しており、さらに液晶明暗調光フィルムには、遮熱、ほぼゼロに近いヘイズ度、幅広い調光範囲および瞬時に明るさを切り替えられるといった特徴がある。調べによると、唯酷科技はフレキシブル液晶フィルムを生産する日本のハイテクメーカーを買収したとの情報があり、同社の製品を改良し、出荷製品のクオリティを厳格にコントロールしているという。

5. 後付け型の自動車音声アシスタントAIを開発 10言語でドライビング体験をカスタマイズ

クルマのインターネット(IoV)と音声認識技術の成熟に伴い、スマート音声車載装置を初期装備したモデルを発売する自動車メーカーが増えている。自動車購入から長年が経過している多くのドライバーにとって、後付けの車載装置は愛車をアップグレードさせる主な手段のひとつだ。自動車という閉鎖空間において、音声は相対的に安全かつ高効率なインタラクティブ方式の一つであり、音声インタラクティブにより車載装置に接続することで、車載スマートデバイスまたは車両のコントロールが可能になるだけでなく、より多くのIoVサービスも取得できる。

 中国のAI関連企業「同行者科技(txzing.com)」の自動車用スマート音声トータルソリューションは、ドライブシーンにおいて音声操作、故障アラームおよび完全音声操作地図ナビゲーション、音声エンターテインメント、WeChat(微信)によるソーシャルコミュニケーション、生活関連といったユーザーのサービスニーズに応え、ハンドフリーおよびアイフリーを実現するワンストップ型音声インタラクティブシステムだ。精度に関しては、システムは時速 110キロまで対応可能となっており、窓やサンルーフを開けた状態およびステレオがオンの状態でも正確な認識ができる。

このほか、システムは音声によりドライバーと接続することで、ドライバーの使用習慣に関するデータを取得し、ビッグデータ分析+AIリコメンドアルゴリズムのサポートのもと、カスタマイズされた走行インタラクティブサービスを提供できる。例えば朝晩の道路状況やニュースの読み上げなどのカスタマイズサービスにより、各個人にマッチしたドライブ体験を生み出す。

同行者科技のソリューションは現在10言語で提供されており、Android、Linux、QNXおよび他のミニシステムとの互換性があり、各OSとの自由な組み合わせが可能だ。

同行者科技のスマート音声トータルソリューション

同行者科技(上海 直近の資金調達ステージ-シリーズC)

各シーンに対応しヒューマニゼーションされた車載スマート音声インタラクティブに特化する企業であり、大量のインターネットリソースを統合し、自動車業界にIoVシステムレベルの音声ソリューションを提供する。トータルマンマシン対話技術およびユーザー画像をベースとしたAIリコメンドアルゴリズムを有する。同社の中心メンバーはテンセント出身。同社のIoVスマート音声プラットフォームは現時点で中国ユーザーに最も多く使用されている。

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