2020年「コネクテッドカーの現在地」 中国のIT御三家「BAT」を徹底比較

 

新通信規格5Gが実用化し、AI関連技術が進化し続けるに伴って、自動運転産業が急成長期を迎えている。中でも車載インターネット(IoV)はその鍵を握る要素だ。2020年はIoVの技術研究が進み、中国内外においてイノベーションの焦点となった。中国のIoVの2020年の歩みを振り返ってみよう。

 

バイドゥ一人勝ちの背景

自動車をスマート端末へ転化する基礎となる「ネットワーク化」。業界関係者の推算では、IoV技術が存分に実用化されればエネルギー消費は20%、排出ガスは25〜30%削減でき、交通渋滞は60%解消し、車両事故は80%も減るという。その重要性たるやいうまでもない。

金融市場データサービスIHSマークイットの最新のレポートによると、インテリジェントコネクティビティを有する自動車の市場規模は拡大を続け、2025年には75%を超えるとみられている。

近年、テックジャイアントと呼ばれる企業が主にIoV分野で競い合っているのはこうした理由による。中国では最も早く市場に参入したのは検索サービス大手のバイドゥ(百度)だ。その後に参戦してきたのがアリババで、国有自動車メーカー最大手の上海汽車(SAIC)と提携してコネクテッドカー向けシステム「斑馬智行(Banma)」を打ち出した。テンセントも負けじとコネクテッドカー事業を手がける子会社「騰訊車聯(Tencent Automotive Services)」、ジョイントベンチャー「梧桐車聯(Phoenix Auto Intelligence)」を立ち上げた他、スマートモビリティのソリューションを手がける「蘑菇車聯(D)」と提携している。これらのIT御三家BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)に続いたのがファーウェイで、自主開発したOS「Harmony OS(鴻蒙OS)」を掲げてスマートカーソリューション事業部を立ち上げた。さらにはEC大手京東集団(JD.com)や、TikTokを世に生み出したバイトダンス(字節跳動)も追随し、まさに群雄割拠の様相を呈している。

IHSマークイットのレポートでは、BATによるIoVシステムの普及状況について、2020年1〜7月に販売された新車のうち、バイドゥのシステムを搭載したものが49%、テンセントが35%、アリババが16%だった。

 

 

IoVシステムを搭載した車種についてみてみると、2020年はバイドゥが61車種、アリババが32車種、テンセントが26車種となっている。バイドゥと提携した車種はこれまでに600車種を超えている。

 

 

2020年はBATと提携するブランドも増えた。8月時点でバイドゥはメルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、フォード、ビュイック、キャデラック、レクサス、ヒュンダイ、キア、吉利汽車(Geely Automobile)、長城汽車(Great Wall Motor)、奇瑞汽車(Chery Automobile)など、アリババはフォード、シュコダ、MG、栄威(ROEWE)、観致(QOROS)、宝駿(Baojun)など上海汽車系の一連のブランド、テンセントは長城汽車系の哈佛(HAVAL)、吉利汽車、長安汽車(Changan Automobile)、フォード、アウディ、BMW、ジープ、マセラティなどと提携している。

 

 

数でみてもバイドゥが抜きん出ていることがわかるが、同社のさらなる強みは自動運転開発のアライアンス「Apollo」である。パートナーの数もさることながら、ドイツ、米国、韓国、日本と世界の主要ブランドをほぼ網羅しているからだ。この点はアリババやテンセントにはない優位性だ。

バイドゥが開発した車載版AIアシスタント「小度助手(Xiaodu)」は、完成車メーカーに対して提供する製品がハードウェアからソフトウェアやサービスに移行することにつながり、各メーカーのさらなる成長にとって起爆剤の役割を果たしている。IoVが乗車体験に「息を吹き込み、命を宿らせ、進化させた」と同時に、自動車メーカーの事業を継続的にアップグレードしてくれるだけでなく、ユーザーのライフサイクル管理を支援する存在になったのだ。

バイドゥIoV事業部を統括する蘇坦氏は「自動車業界は未曾有の変革期を迎えている。ソフトウェアがハードウェアを定義し、インテリジェンスが性能を定義し、自動車が魂を持ちはじめ、その魂が自動車の形態を定義する」と述べている。IoV産業にまつわる何もかもが巨大な商機を秘めているのだ。

 

技術基盤は「オープン」でいられる者が勝ち

たとえば、自動運転技術のオープンプラットフォームとして世界最大規模の「Apollo」は、車両プラットフォーム、ハードウェアプラットフォーム、ソフトウェアプラットフォーム、クラウドデータサービスを包括し、車載OS「IOV OS」を通じてこれらを管理し、オールシナリオのソリューションを実現している。

アリババ傘下で前出の斑馬智行を運営する「斑馬網絡(Banma Network)」は、アリババの車載OS「YunOS(雲OS)」を改編し、エンド・エッジ・クラウド・ネットワークを統合するシステムを構築。電気/電子アーキテクチャー(EEA)をインテリジェント化し、車載ハードウェアおよびソフトウェア、車載OS、車載アプリの4つの側面で技術の自律型サイクルを形成し、そのコネクティングハブとして同社のIoT向けOS「Ali OS」を据えている。

テンセントのIoVはビッグデータ、クラウドコンピューティング、AI、セキュリティ機能、コンテンツプラットフォームの五つのフレームワークで構成される。同社のIoV事業が抱える三つの看板の一つである蘑菇車聯は、「OS+クラウドAI+インテリジェント端末+センサー」から成るソリューションを打ち出している。また、もう一つの看板である梧桐車聯は独自の車載OS「TINNOVE OpenOS」をベースにソリューション「TINNOVE 3.0」を発表した。

以上三社のIoVソリューションは、形式やコンセプトの伝達方法が若干異なるだけで実際は酷似しているようにみえるが、実はカーネルの違いが大きい。

バイドゥのApolloはIoV、V2X(車と車、交通インフラ、歩行者、ネットワークとの通信)、自動運転の全てを網羅した展開を行っている。アリババやテンセントのソリューションは主にIoVのみをカバーするものだ。

IoVはどのような技術基盤を備えるべきか?あらゆる車種に対応し、標準化されたソリューションを提供すべきなのか?あるいはオールシナリオに対応するアプリのエコシステムを構え、豊富で互換性に飛んだプログラミングツールを提供すべきなのか?答えはそのいずれも必要だということだ。

こうした視点から見れば、この条件を満たしているのは現状、バイドゥのみということになる。

さらに、スマートカーは「ヒトとAIによる共同運転」の時代に入った。ドライバーと車の間で全面的かつスムーズにインタラクションが行われることが自動車のインテリジェント化の核の一つとなったのだ。バイドゥの地図サービス「百度地図(Baidu Maps)」は車載版をアップグレードし、スマートナビゲーションシステムを搭載するようになり、自動運転車にとって最も優れた地図サービスとなった。自動車メーカー向けに提供した2021年版は「時代の先を行く車載地図」と評され、自動車の量産をより簡単にするソリューションとなった。現段階でアリババもテンセントも追いつけない、最大限に開放されたサービスだ。

2020年現在、バイドゥが大多数の自動車メーカーにとって技術基盤の役割を担っているのは既知の事実であり、この立ち位置に変化が現れるかどうかは、今後のバイドゥの足並みの速さにかかっているといえよう。

 

エコシステムも「友人の多い者」が勝ち

IoVが浸透率を高めるに連れ、乗車体験も単純に運転周りに限るものではなくなってきた。LBS(位置情報サービス)などのテクノロジーや、コンテンツによる体験にまで拡張してきている。

2020年はまさに自動車向けのコンテンツエコシステムが爆発的成長を遂げた1年だ。無論、BATはこの分野でも突出している。

バイドゥはまさにここを強みとする。LBSに関しては中国で最も豊富なサービスインフラを敷いている。データ基盤も同様に、完全に自動車およびモビリティサービスに特化したデータプラットフォームを築いており、車内・車外を包括したビッグデータの統合と分析を可能にし、まさに「データドリブン」を実現済みだ。Apolloのエコシステムに加入するパートナーは、音声コンテンツ配信サービス「Himalaya(喜馬拉雅)」「蜻蜓FM(QingTing FM)」、音楽配信サービス「QQ音楽(QQ Music)」など300を超える。世界の主要完成車メーカーやTier1(部品などの一次サプライヤー)、チップメーカー、センサーメーカー、モビリティインテグレーター、モビリティサービス企業など、ハードウェアからソフトウェアまで産業全体を完全網羅している。

アリババに関しては「エコシステムの自主構築」に少々の疑問符がつく。アリババが唱える独自のエコシステムとは、自社のAliOSに対応する「アリババ系」アプリケーションで構成されるものを指す。地図サービスは「高徳地図(Amap)」、音楽配信サービスは「蝦米(Xiami Music)」などといった具合だ。仮に顧客がテンセントのSNSアプリ「In-Car WeChat(車載微信)」など、外部のソフトウェアを導入しようとすればかなり煩雑な手間がかかる。世界的な企業が独占禁止法違反を指摘されていることが注目の話題となっている現在、アリババが展開するIoVのエコシステムも同様に批判の対象となっている。顧客の選択権が奪われ、アリババのサービスを利用する以上は同社が提供するソフトウェア以外は選べない。独自のエコシステムが独占行為そのものになってしまっているのだ。

テンセントも大筋ではアリババと同様のエコシステムを有している。しかし、これまで構築してきた同社の車載向けコンテンツエコシステムは昨年になって様相が異なり、その中心に据えられているのはもはやコンテンツではない。テンセントは最新版IoVエコシステムとして「TAI3.0(騰訊生態車聯網3.0)」を打ち出してきた。中には、車載仕様のサードパーティー製ミニアプリを一同に集めた「騰訊小場景(We Scenario)」も含まれている。小場景内のアプリはクラウドで稼働し、車両内蔵のハードウェアを専有しない。現在、テンセントのコンテンツエコシステムはこの小場景以外に「In-Car WeChat」、オーディオ系アプリを集めた「騰訊愛趣聴(Tencent Aiquting)」、音声アシスタント「騰訊雲小微(XIAOWEI)」「騰訊地図(Tencent Maps)」などを抱える。

以上三社を比較してわかるのは、数にしても質にしてもバイドゥが一歩先を行っているということだ。バイドゥは数多くのソフトウェアをサードパーティーから調達しており、コンテンツエコシステムにおいても、閉鎖的なアリババやテンセントと比較してより開放的なスタンスをとっている。決済機能一つとっても、自社サービス以外に銀聯(UnionPay)やアリペイ(支付宝)、WeChatペイ(微信支付)などが自由に選べる。

 

まとめ

スマートカー産業全体の進展をみると、現在は黎明期にすぎない。ただ、技術でもエコシステムでも頭一つ抜けているのはバイドゥだということがわかる。中国で自動運転車の路上試験許可を最も多く取得しているのはバイドゥで、特許の申請件数やエコシステムの規模などをみても他社の一歩先を行っている。しかし、自動運転そのものが一足飛びに実現できる技術ではなく、バイドゥとてゴールへの道のりはまだ長い。

 

 

作者:余凱文 WeChatアカウント「智能相対論(ID:aixdlun)」

原文:https://mp.weixin.qq.com/s/-_qW828wcKiW5f15ZEBbxg

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