ロボット・ドローン・ICタグ・ARグラス 高速物流支えるテクノロジートレンド5選

中国企業のテクノロジーで向上する倉庫管理効率

1人当たりGDPの増加とともに購買力の高まりがみられる中国は、すでに世界第二の消費市場となっている。このほか、ECの発達も物流・倉庫をめぐる莫大なニーズをもたらした。每年の中国のショッピングイベント、3月18日の「318女神節」、6月18日の「618購物節」、11月11日の「双11」、さらには年末12月12日の「双12」に至るまで、売上げが回を追うごとに過去最高額を記録している状況だ。これと同時に、中国企業は膨大なニーズを前に配送効率を引き上げるため、幅広いテクノロジーを物流・倉庫に活用している。

今回の中国業界Deep Dive では、中国企業が倉庫というシーンでいかに技術を利用し、効率全体の引き上げに取り組んでいるかを紹介しよう。

 

 

1. ロボットアームとマシンビジョンの協調技術で倉庫效率を向上させる仕分けロボット

倉庫作業段階においては、初見での商品認識およびピックアップという単純作業だけをとっても、現時点では複雑かつ先進的な一連のソフト・ハードウエアが必要となる上に、商用化も困難な状況にある。これにはロボットアームが人の手と同じように複数製品の中から個別あるいは複数の製品を精確かつ速やかにピックアップすることが求められ、かつ他の商品を傷つけることは許されず、マシンビジョン、3Dセンシング、モーションコントロールなど複数技術がシームレスに連携する必要もある。

中国企業「XYZ Robotics(星猿哲科技)」 の自動仕分けソリューションはこうした業界の弱点を解決できる。ロボットアームとマシンビジョンの協調技術は、3Dビジョン、ロボットオペレーティングアルゴリズムおよびAI技術の総合的な応用であり、XYZ Roboticsの主要な技術的強みまた参入障壁でもある。同社は技術的蓄積をベースに、高い参入障壁となる二つのコアテクノロジーを構築している。

第一に倉庫内で動的更新される1万件を超えるSKUの処理が可能なマシンビジョンであり、ロボットのモーションプランニング(動作計画)を深く踏まえた上で、EC倉庫における商品ジャンルの多さや更新の早さといった業界の難題を解決する。第二にロボットのフレキシブルホルダーの設計能力であり、XYZ Roboticsは交換完了までの所用時間がわずか 0.6 秒のホルダーツール高速交換システムを開発した。同システムは、効率を維持したまま商品のジャンルを処理判断し、最も適切なホルダーツールを用いてサイズや梱包の異なる各種物体を処理できる。

XYZ Roboticsの仕分けロボット
XYZ Roboticsの仕分けロボット

XYZ Robotics が初めて発表した複数種類の商品の混在に対応する自動仕分け作業ステーションは、中国国内の大手物流企業の蘇州倉庫で活用されている。ロボットの仕分け効率は作業員の 1.5 倍以上に達するほか、事前の商品情報の収集も全く不要。このほか、現時点でのコスト計算によれば、XYZ Roboticsを採用した倉庫は基本的に18~24カ月でコスト回収できる。将来的に産業用ロボット、産業用スキャナー、電気コンポーネント、ベルトコンベアなどのモジュールのコストは引き続き低下すると予想される。

XYZ Robotics(上海/米ボストン 直近の資金調達ステージ:シリーズA)

自動仕分けロボットの開発メーカー。産業自動化分野におけるロボット製品の開発業務に特化する。ディープラーニングおよびロボット操作技術を基軸として開発した倉庫内仕分けロボットにより、ピッキングと梱包との間にある仕分けの自動化を行い、無秩序に混在した製品をオーダーの要求通りに選択。倉庫や商品仕分け・配送分野の効率向上に努めている。

 

 

2. ARグラスで倉庫作業員の効率向上

人手に頼った倉庫では数百~数千人の作業員を必要とすることも多く、百万件にも上る商品在庫が管理の難しさや効率の低さといった問題につながっている。作業員は倉庫内の多くの段階で商品を識別し探し出す作業を行っており、作業時間が4時間を超えるとミスの頻度が明らかに上がり、効率は下がっていく。こうしたことから、「Rokid(霊伴科技)」は企業顧客向けの ARグラス 「Rokid Glass」を通じて物流業界のスマート化によるアップグレードを支援しており、現在はアリババの物流子会社「菜鳥網絡(Cainiao)」とも戦略提携関係にある。

Rokid Glassは先進的なAIアルゴリズムをベースとし、従来型のPDA(携帯情報端末)のサポートさらには置き換えが可能であり、速やかにバーコードをスキャンし、実体倉庫とデジタル倉庫とをリアルタイムで同期するほか、倉庫作業のスマート化や作業効率の向上を実現する。さらにRokid Glassは菜鳥物流のIoTオープンプラットフォームの重要な接続デバイスであり、物流における仕分け、オーダー管理、倉庫内ナビゲーション、データ管理、バーチャルアシスタントなど、菜鳥と共に業界の効率向上を支援している。

倉庫で活用されるARグラス「Rokid Glass」

Rokid Glass(杭州 直近の資金調達ステージ:未公開)

ヒューマンマシンインタラクティブ技術とAIソフトウエア・ハードウエアの開発に特化する2014年創業のイノベーション型テック企業。ARグラス、スマートスピーカーおよび関連するアプリやサービスを手掛ける。自社での技術開発能力を有し、音声認識、自然言語処理、画像認識、光学パネルなどのコアテクノロジーを抱える。先進的なAIおよびAR技術を業界での活用に結び付け、効率の高いソリューションを各専門分野の顧客に提供し、堅実な技術により産業の発展を推進している。

菜鳥網絡(杭州 直近の出資ステージ:戦略投資)

ビッグデータに基づく物流連携プラットフォーム。データを核心に据え、ソーシャライズされた連携を通じ越境、速達、倉庫配送、農村、末端配送における全物流チェーンを一つに結び、ビッグデータのリンク、データによるエンパワーメント、データインフラ製品などを提供。さらに越境、倉庫、配送の段階をつないで各サービスを一本化し、事業者に対して倉庫・配送一体型のソリューションや安心な越境物流ソリューションなどを提供している。

 

 

3. 人ではなく商品が「人を探しに来る」スマート倉庫システム・ロボットソリューション

2018 年、中国のEC分野におけるスマート倉庫物流ロボットのニーズは100万台近くに達したが、現時点での普及率は1%にも満たない。製造業ではこうしたロボットに対するニーズがさらに高く1000万台を超えるため、中国における倉庫物流のスマート化自体が潜在的な1兆元級の市場となっている。1人当たりGDPの継続的増加に伴い、労働者の雇用も徐々に規範化し人的コストが上昇しているため、必然的に労働集約から技術集約の方向へと業界のモデルチェンジが迫られている。既存の倉庫スマート化シーンにおいては、多くの製品が業務タスクの振り分けや、ロボットと人間の行動ルートの最適化を重視しているものの、倉庫内における商品保管方法の最適化を軽視しているため、倉庫システム全体の最適化やスマート化の実現が難しい状況にある。

牧星智能によるスマート倉庫物流アルゴリズムの活用

「牧星智能(MUSHINY)」はスマート倉庫とスマート物流の統合によるトータルソリューションを提供する。スマートストレージ:ランダム格納方式のアルゴリズムにより、商品格納空間の利用率が100%向上。さらに高密度格納アルゴリズムを使用し、商品格納棚の複数密集配置方式により倉庫の平面利用率も20%以上アップ。また商品過密度に関する動的アルゴリズムにより、リアルタイムでの在庫商品の格納最適化を実現する。

牧星智能のスマート倉庫ロボット

スマート物流:独創的なフローピッキングアルゴリズムにより、その時々の待機中業務タスクに関してリアルタイムでの最適解を求めるため、ピッキング効率はトータルピッキングに比べ30%以上アップする。アルゴリズムを活用し最適な物流ルートの検索を行うことで、各タスクに最適なロボットが確実に振り分けられ、かつ最適化されたルートでタスクを実行する。またリアルタイムルート調整アルゴリズムのサポートにより、いずれの通路でも一方通行ではなく双方向での通行ができる。さらに業務タスク自動意思決定システムの一連のアルゴリズムにより、システムが作業員の業務タスクを自動で手配、管理、検査する。倉庫運営システム全体では、既存倉庫に比べ作業員の労働力を70%削減できる。アルゴリズム技術をベースとしてロボットの自社開発も行い、ソリューションに役立てている。

牧星智能(蘇州 直近の資金調達:シリーズA)

倉庫サービスシステムの研究開発企業。倉庫物流企業に対して倉庫設計・計画実施サービス、WMS(倉庫管理システム)、WCS(倉庫制御システム)の設計開発サービスおよびピッキング技術およびピッキング方式のプラン設計などを含むその他関連コンサルティングサービスなどを提供する。

 

 

4. ドローンによる倉庫棚卸の自動化

倉庫の棚卸は倉庫物流業務におけるきわめて重要な一環であり、長期にわたり人手によって実施されてきたが、こうした従来型の棚卸方法は煩雑でミスが出やすく、再度の棚卸が難しい上に時間と労働力を消耗する。このほか、大型倉庫の棚卸においては作業員が高い場所に登る必要があり、高所での作業が作業員にとっての大きな危険となっていた。

こうした倉庫物流シーンに関し、中国のドローン関連企業「錫月科技」は物流倉庫において自動で棚卸を実施できる国内初のドローンシステム「錫鵲」を開発した。「錫鵲」は既存のドローンが室内では飛行ルートの自主計画ができない弱点を解決している。 QRコード、RFID、OCR、コンピュータビジョンなどのIoTおよびAI技術をもとに商品の認識と安全リスク評価を実施し、棚卸の効率を引き上げた。錫鵲は人手による付加的操作を必要とせず、精確な3D棚卸座標に基づきワンボタンで飛び立ち、棚卸のプロセスを自動化する。さらに自社開発システムによるデータの可視化も実現した。

QRコード、RFID、OCR、コンピュータビジョンなどのIoTおよびAI技術をもとに商品の認識と安全リスク評価を実施し、棚卸の効率を引き上げた。錫鵲は人手による付加的操作を必要とせず、精確な3D棚卸座標に基づきワンボタンで飛び立ち、棚卸のプロセスを自動化する。さらに自社開発システムによるデータの可視化も実現した。

錫月科技のドローンによる棚卸
錫月科技のドローンによる棚卸

錫月科技(上海 直近の資金調達ステージ:未公開)

ドローン技術の研修サービスプロバイダーである錫月科技は、ドローンの核心的制御技術、マシンビジョン・慣性センサー融合ガイド技術、AI空中ドローン技術の研究、およびドローンの飛行制御技術の教育・推進にも注力。同社のドローン技術実地訓練基地では、ドローン原理の学習に加え、技術研究・拡大も提供できる。

 

 

5.高効率の倉庫管理をかなえるRFIDトータルソリューション

倉庫管理システムの目標は、RFID技術をベースとして高速ルートを構築し、倉庫の保管統計を実現し、入庫・出荷商品の高速自動記録を実現することだ。システムはRFIDミドルウエアをプラットフォームとし、入庫、棚卸し、倉庫内移動、出庫など複数のプロセスを包括している。

立芯科技のRFID棚卸システム

「立芯科技」は倉庫の保管位置と保管ボックス、さらに各製品にRFIDタグを貼付する方法を採っている。出入庫の際に読取機器(ポータブルデバイス、固定デバイスまたはRFID対応改造を行ったフォークリフト)が三者の情報を自動収集し、紐付けとアンロックを実施する。棚卸期間中、倉庫管理員はポータブルデバイスまたはリーダーライターで遠距離にある複数の目標物の在庫情報を読み取ることができ、速やかな棚卸しと関連情報の正確性が保証される。このオペレーションシステムはスマートメッセージや操作制限も行えるため、人的ミスや倉庫情報が古いまま滞るという欠点を回避し、倉庫の空間利用率を引き上げ、在庫コストを引き下げるとともにペーパーレス化管理も実現している。

立芯科技のスマート倉庫ソリューション
立芯科技の立体自動倉庫ソリューション

このほか立体自動倉庫のシーンでは、IoTのRFID技術でフォークリフトのスマート誘導、リアルタイムでの位置把握、過去の走行ルートのプレイバック、リモート検索など複数機能が実現。可視化された倉庫が図形で画面に写し出されるため、フォークリフト操作員は現在の走行位置状況および倉庫内のラックにある商品の格納・分布状況を適時に把握できる。システムは倉庫内のラックの商品をスマート検査し、入庫が必要な商品を自動で分類・保管した上で、割り当てられたラックの位置、階層番号などの情報をフォークリフトの移動ステーション上に表示し、フォークリフトによる商品格納作業をリードする。さらに、出庫が必要な商品については、商品の入庫時間をもとにシステムが入庫時間の早い商品から優先的に出庫・割り当てを行う。フォークリフトが入出庫のガイド位置に到着すると、システムは自動で音声案内を行う。このため出入庫の作業効率が大幅に上がり、人件費も効果的に引き下げられている。

立芯科技(浙江省 直近の資金調達ステージ:戦略投資)

IoT業界向けのソリューションプロバイダー。インダストリアル4.0およびハイクオリティな各タイプのRFIDタグやインレイの設計・製造サービスに注力する。またRFID活用ニーズに応じたカスタマイズ製品も手掛けており、同社のソリューションはインダストリアル4.0、スマートシティ、自動車製造、図書館、公文書館などの分野で活用されている。 人件費をめぐる難題が浮上する中、中国企業はコンピュータビジョン、ロボットアーム、ロボット、ドローン、RFIDなどの技術を活用し、倉庫物流シーンでの自動化と安全性のレベルを引き上げている。中国業界Deep Diveではさらに多くのシーンや課題にフォーカスし、中国の技術やモデルの実用化と導入を追っていきたい。

 

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人件費をめぐる難題が浮上する中、中国企業はコンピュータビジョン、ロボットアーム、ロボット、ドローン、RFIDなどの技術を活用し、倉庫物流シーンでの自動化と安全性のレベルを引き上げている。中国業界Deep Diveではさらに多くのシーンや課題にフォーカスし、中国の技術やモデルの実用化と導入を追っていきたい。

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